加齢黄斑変性の治療で気をつけたいこと

 まず加齢黄斑変性が確定診断されることです。逆の言いかたをすれば、加齢黄斑変性に似ているけれども、ずっと罹患者が少ないが進行が急速な病気を見分けてもらっているかどうかです。例えば網膜色素線条という病気があります。この疾患に脈絡膜新生血管ができると、初期に濃密な治療に入らないと、ある段階から急速に視機能が失われていきます。この疾患が滲出型加齢黄斑変性として誤診されて、手遅れとなってしまったケースを幾度とみてきました。近年、手術を受けるにあたり、執刀医の経験手術数を調べることが増えてきました。加齢黄斑変性では経験手術数にあたる指標はなんでしょうか。加齢黄斑変性は世間で考えられているよりずっと難しい病気です。自分であれば、硝子体注射の注射数で判断するのではなく、例えば網膜色素線条の脈絡膜新生血管を10例程度は治療したことがある医師に診てもらいたいと思います。
 次に、加齢黄斑変性の要素が十分把握されているかです。滲出型と萎縮型が混在する症例が急速に増加しているように感じております。米国では以前から混在している症例が多かったと聞いています。滲出型にはアイリーアやルセンティスの抗VEGF薬が効果がある一方、萎縮型にはアイリーアは悪化させる効果があることが知られています。混在している場合、治療にあたり、どちらの要素が視機能に影響を及ぼしているのか、また3年後、5年後影響を及ぼしそうなのか、優先順位を決めないといけません。決めるには、まず正しく病変を評価することが必要です。長期にわたる固視点の移動についての知識も必要です。漫然と抗VEGF薬を硝子体注射すればよいというものではありません。
 次に、病変の進行度合いの評価がされているかです。ヒトにもともと備わっている機能を標的とする薬は、個人差が大きく出ることがよくあります。細菌の機能に働きかける抗生物質が誰にでも効果があるのと対照的です。抗VEGF薬によく反応する患者さん、中程度反応する患者さん、ほとんど反応しない患者さんなど、グラディエーションのようになっています。当院での抗VEGF薬の投与間隔は大規模な臨床試験の結果を最重要視しています。ただし生物の多様性は驚くような「はずれ値」をもたらすこと多いです。大規模な臨床試験ははずれ値を追求することがそもそもの目的ではありませんし、試験に費用がかかりすぎて非現実的です。しかし現場の診療で大事なのは経過が思わしくない「はずれ値」の患者さんに早く気づき、手を尽くすことだと思います。よく反応する患者さんはよいのですが、ほとんど反応しない患者さんをどうしたらよいのでしょう。加齢黄斑変性はもともと自然史というものがあり(無治療で行くとどうなるかという知識)、それと頭の中で比べることが必要です。加齢黄斑変性は無治療でも、そのときは良くなったり悪くなったりすることがある病気です(数年という単位では無治療では悪化します)。加齢黄斑変性の自然史をきちんと理解する機会をもった医師はたいへん貴重な存在です。抗VEGF薬を注射し続けても自然史と変わらない場合は、光線力学療法やステロイド併用療法など、異なるメカニズムの治療法に踏み切るべきと考えています。
 次に、全身の様子を医師が把握しているかどうかです。例えば、末梢血幹細胞の研究と合致する知見として、大きな外科手術をされた直後に、滲出型加齢黄斑変性が発症することを経験します。ヒトにとって免疫という機構は病気の本態といってよいほど支配力があります。このような患者さんは、全身状態の回復とともに加齢黄斑変性の病状も急によくなる印象があり、抗VEGF薬を打ち続けるかどうかはよく考える必要があると思います。治療に関わる医師が全身状態によく注意を払い、より確率の高いストーリーをもとに治療していくことが必要と思います。
 次に、加齢黄斑変性自体も遷り変りつつあり、例えば最近は15年前のような典型的なポリープ状脈絡膜血管症はほとんどおらず、欧米の論文でみていた、本の中だけにあったような症例に置き換わってきているように思います。自院の患者さんがポリープ状脈絡膜血管症かどうかということは、もうかなり前から重要だと思えません。現在重要なのは、滲出型と萎縮型の混在と予後、一線の方々が明らかにしつつある pachychoroid (厚い脈絡膜)と治療、ゲノム配列により予後がどの程度変化するのか、60代と80代の加齢黄斑変性は同じに扱えない、といったことであり、それらの知識を全力で統合して、目の前の患者さんに還元することです。

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